モノローグ
――守矢神社。
幻想郷の外からやって来た二柱+αの神様が、日々人気取りの策を巡らす場所である。
雲一つない8月の空を見明げ、八坂神奈子(神様その1)は新たな手を考え出した。
元来、古い暦の元では、これ位の時期に七夕が行われていた。しかし幻想郷においても
人里にはすっかり太陽暦が浸透し、最早旧暦の事など覚えている人間は少なくなった。
ならば誰もが忘れてしまった旧七夕を、守矢新七夕と名付けてプロデュースしてみては?
皮肉にも新七夕は、梅雨の関係で星の見え具合が現在の七夕より勝る。
それ故に何でも願いが叶うと宣伝すれば、無知な人間はたちまち乗って来るだろう。
それに何より、物事は最初に名乗った者勝ちだ。
永い時を生きて来た狡猾な神霊――つまり神様――は、それを良く知っている。
洩矢諏訪子(神様その2)が更なる手を打ち出した。
イベントを盛り上げ、また販売して利益を挙げる為に小道具が必要である。
彼女はありふれた花である朝顔に目を付けた。ありふれた花であるが
七夕成就の象徴として知られる。加えて品種改良なりペンキを吹き付けるなりで
派手な色に変化させれば、無知な人間はたちまち欲しくなるだろう。
朝顔の栽培係・兼宣伝係には、神社の神様見習い・東風谷早苗が抜擢された。
早苗によって人里で新七夕が周知され、里が朝顔で覆い尽くされた頃、異変が勃発する。
人々の身の程知らずな願い事は神霊――欲の具現――となり、織姫と彦星の再会を
象徴する朝顔を通じて、空の星々に影響を及ぼしてしまった。
僅か一カ月で再び天の川が開通し、織姫・彦星と白鳥の星・夏の大三角が輝き出す。
そして慌てたように降り出す大雨――天からの七夕中止のお知らせ・催涙雨。
博麗神社の巫女・博麗霊夢は激怒した。
必ずかの邪智暴虐の守矢を除かねばならぬと決意した。
普通の魔法使い・霧雨魔理沙には事情はわからぬ。
けれども異変と天体に関しては、人一倍に敏感であった。
――星明かりの下、「彼女」は目線を上げた。
ふうと息をつき、古く分厚い書物を一息に閉じた。
巻き起こる超自然の魔法の風。一薙ぎにされた周囲の松明は、消えるどころか
より旺盛に、不吉なゆらめきを増して燃え盛った。
瞳を一杯に開き、魔力を帯びた七夕星を見上げ――
「彼女」は願いを唱えた。